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金沢地方裁判所 昭和36年(行)9号 判決

金沢市西金沢町一丁目へ一〇七番地

原告

石丸外太郎

右訴訟代理人弁護士

重山徳好

金沢市出羽町二番丁一番地

被告

金沢国税局長

松井静郎

右指定代理人

加藤利一

老田実人

久野忠志

炭谷忠雄

岩淵章

竹園義雄

干場芳昭

右当事者間の昭和三六年(行)第九号所得の更正処分に対する審査決定取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当時者双方の申立

一、原告の申立

被告が昭和三六年九月三〇日付をもつて、原告の昭和三四年分所得税につき金沢税務署長のなした更正処分に対する審査請求に対しなした審査決定はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告の申立

主文同旨の判決を求める。

第二、原告の請求原因

一、原告は昭和三四年三月一四日、自己所有にかかる別紙目録記載不動産を訴外徳野精に代金二〇〇万円で譲渡したので、昭和三四年度所得税に対する譲渡所得金額は、金六六〇、三一二円であつたことを、昭和三五年一〇月二四日金沢税務署長に確定申告した。

二、これに対し、金沢税務署長は、昭和三五年一一月二日原告の譲渡所得金二、〇八二、七〇〇円及びこれに対する過少申告加算税金二二、四五〇円になるとの更正決定をなした。原告はこれに対し昭和三五年一一月三〇日前記更正決定における譲渡所得を原確定申告額に変更し、過少申告加算税を取消す旨の再調査申請をなした。

三、金沢税務署長は、右に対し、昭和三六年三月一日更正譲渡所得の一部を取消し、これを金一、六六〇、三一二円とし、過少申告加算税を金一五、五〇〇円に変更の再調査決定をした。

四、原告はこれに対し、昭和三六年三月二九日被告に対し、右調査決定を不服とし、原確定申告額に変更し、過少申告加算税を取消すことの審査請求をなした。

金沢税務署長は、右審査請求後の昭和三六年九月一六日に昭和三六年三月一日付再調査決定は、再調査の申請があつてから三ケ月を経過してなされたので、これは誤りであるから、取消す旨の訂正通知をなした。

被告は前記原告の審査請求に対して、更正譲渡所得の一部を取消し、これを一、六六〇、三一二円とする審査決定をした。

しかし、原告の昭和三四年分所得税に対する譲渡所得は、原確定申告どおり、金六六〇、三一二円であり、原告は到底右審査決定に応ずることはできないので本訴請求に及ぶ。

第三、請求原因に対する被告の答弁

一、請求原因第一項の事実中不動産の買受人及び売買価額は争うが、その余の事実は認める。

二、請求原因第二項第三項は認める。

三、請求原因第四項の事実中譲渡所得の金額は争うが、その余の事実は認める。

第四、被告の主張

一、課税の経過

(一)  原告は、昭和三四年分所得税について、昭和三五年一〇月二四日金沢税務署長に対して、次のとおり別紙目録記載の不動産の譲渡価額を金二〇〇万円として、その譲渡所得を金六六〇、三一二円と計算して確定申告書を提出した。

給与所得金額 金一九二、〇〇〇円

譲渡所得金額 金六六〇、三一二円

総所得金額 金八五二、三一二円

所得税額 金一五〇、五〇〇円

源泉徴収税額 金一〇、八〇〇円

差引申告納税額 金一三九、七〇〇円

(二)  金沢税務署長は、原告が期限後に、確定申告書を提出したことについて、正当な事由が認められなかつたので、昭和三五年一〇月三一日付で申告納税額に一〇〇分の二五の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税額金三四、七五〇円の決定をした。

金沢税務署長は、別紙目録記載不動産(以下本件不動産と呼ぶ)の時価を、相続税法の評価方法および隣接地の売買実例等から計算すると、その金額は金四、八四五、八八六円となり、原告が申告した本件不動産の譲渡価額金二〇〇万円は著しく低額であると認められるので、所得税法第五条の二第二項を適用して、本件不産産を時価で譲渡したものと看做して譲渡所得を計算すると、収入金額金四、八四五、八八六円、譲渡所得金額金二、〇八二、七〇〇円となるので昭和三五年一一月二日付で次のとおり更正した。

給与所得金額 金一九二、〇〇〇円

譲渡所得金額 金二、〇八二、七〇〇円

総所得金額 金二、二七四、七〇〇円

所得税額 金六〇〇、一四〇円

源泉徴収税額 金一〇、八〇〇円

差引申告納税額 金五八九、三四〇円

過少申告加算税額 金二二、四五〇円

(三)  原告は右の更正処分に対し、昭和三五年一二月一日金沢税務署長に再調査請求書を提出した。

金沢税務署は、本件不動産の譲渡価額について調査したところ、原告が申告した譲渡価額金二〇〇万円は誤りで、その金額は金四〇〇万円であることが判明した。本件不動産の譲渡価額が金四〇〇万円であるときは、所得税法第五条の二第二項の規定の適用はないので、収入金金四〇〇万円で計算すると譲渡所得金額は金一、六六〇、三一二円となるので昭和三六年三月一日付で更正処分の一部取消の再調査決定をして、翌二日原告に通知した。しかし、右通知が再調査請求書を受理してから三ケ月を経過してなされていることが判明したので、昭和三六年九月一六日付をもつて、右再調査決定を取り消すとともに、右再調査請求をみなす審査に切りかえた旨、原告に通知した。

(四)  原告は、これに対し、昭和三六年三月二九日被告に審査請求書を提出した。

被告は、本件不動産の譲渡価額について調査したところ、その金額は四〇〇万円であることが判明した。それで昭和三六年九月三〇日付で、次のとおり更正処分の一部取消の審査決定をして、同日原告に通知した。

給与所得金額 金一九二、〇〇〇円

譲渡所得金額 金一、六六〇、三一二円

総所得金額 金一、八五二、三一二円

所得税額 金四五二、三〇〇円

源泉徴収税額 金一〇、八〇〇円

差引申告納税額 金四四一、五〇〇円

二、被告が、本件不動産の譲渡所得金額を、金一、六六〇、三一二円と審査決定した理由は以下述べるとおりである。

本件不動産に対する譲渡所得金額の争いは、収入金が金二〇〇万円であるか、金四〇〇円であるかにある。

ところで、原告は本件不動産を昭和三四年三月一四日徳野精、角沢正雄、神田梅男、能田正夫、幅口清治、田川一郎、若原康三郎、吉本綾子の八名(代表者徳野精)に金四〇〇万円で譲渡したものであるから、本件不動産の譲渡所得の収入金を金四〇〇万円として計算した本件審査決定は適法である。

第五、被告の主張に対する原告の答弁

被告主張事実中、徳野精外七名に本件不動産を金四〇〇万円で譲渡したとの点は否認し、その余の事実は認める。

第六、証拠関係

一、原告

書証として、甲第一号証乃至第八号証を提出し、証人右丸明(第一、二回)、同提博康の各証言及び原告本人尋問の結果を援用し乙第一号証乃至第五号証は不知、第六号証第七号証の成立は認めると述べた。

二、被告

書証として、乙第一号証乃至第七号証を提出し、証人西谷泰治、同白江平太郎の各証言を求め、甲号各証の成立は認めると述べた。

理由

一、原告が、昭和三四年分譲渡所得金額を、金六六〇、三一二円として、昭和三五年一〇月二四日金沢税務署長に確定申告したこと、これに対し、金沢税務署長は、昭和三五年一一月二日、原告の譲渡所得金額を金二、〇八二、七〇〇円及びこれに対する過少申告加算税金二二、四五〇円となるとの更正決定をなしたこと、原告は昭和三五年一一月三〇日右に対し再調査申請をなし、これに対し金沢税務署長は昭和三六年三月一日更正譲渡所得金額の一部を取消し、これを金一、六六〇、三一二円とし過少申告加算税を金一五、五〇〇円とする旨の再調査決定をしたこと、金沢税務署長は昭和三六年九月一六日に、昭和三六年三月一日付でなした再調査決定は、再調査の申請があつてから、三ケ月を経過してなされたので、これは誤りであるから取消す旨の誤謬訂正通知をなしたこと、原告は金沢税務署長のなした前記再調査決定に対し、被告に原申告額に変更し、過少申告加算税を取消すことの審査請求をし、被告は昭和三六年九月三〇日付で右に対し、更正譲渡所得金額の一部を取消し、これを金一、六六〇、三一二円とする審査決定をなしたことは当事者間に争いがない。

二、そこで本件についての唯一の争点である本件不動産の譲渡金額につき判断すると、証人西谷泰治の証言により真正に成立したと認める乙第二号証乃至第五号証、成立に争いない乙第六号証乃至第七号証並びに証人白江平太郎、同西谷泰治の各証言によれば、昭和三四年三月一四日仲介人白江平太郎を通じて原告から徳野精、角沢正雄、神田梅男、能田正夫、幅口清治、田川一郎、若原康三郎、吉本綾子の八名がそれぞれ五〇万円宛支出して本件不動産を買受けたものであり、したがつてその譲渡価額が金四〇〇万円であつて、かつ金銭の授受は直接売買当事者間でなされた事実を認めることができ、これに反する証人石丸明の証言(第一、二回)並びに原告本人尋問の結果は措信できず、また甲第一号証は前掲各証拠に照らし、採用し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

してみれば、本件不動産の譲渡金額を金四〇〇万円と決定した被告の処置は適法であり、したがつて、それに基づいてなした審査決定には何ら違法はないものといわねばならない。

よつて、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩崎善四郎 裁判官 木村幸男 裁判官 畠山芳治)

目録

金沢市長町一番丁六番地

宅地 一五二坪二勺

同所同番地

木造瓦葺二階建 居宅 一棟

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